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再編_Re:Re:.txt

  • 執筆者の写真: ペトリ皿エタノール
    ペトリ皿エタノール
  • 2月4日
  • 読了時間: 4分

「はぁ!? 直接訊いたわけ、あのおっさんに?」

『それとなく でも泣くばっかりで答えてくれなかった』

「……命知らず」

『二回死んでるから知ってはいる』

「そーいうんじゃないんだって……まぁ、軽口叩ける分にはいいけどさぁ」

 幻聴の主であった試作B号と出会って、早いもので約半年が過ぎた。不慣れな身体の動かし方や感熱紙での会話も次第に慣れ、塞ぎ込むばかりの日々にも少しずつ変化が訪れていた。時折B号のいる研究室を訪ね、わたしの内部データや研究資料からルーツを探れないかと画策している。

『それで、今日は』

「えーっとねぇ……A号の起動日以前のバージョンの機体からいくつかサルベージしてきたんだけど、ちょーっと微妙かな」

『破損?』

「いや、それは全然大丈夫。復旧にめちゃくちゃ時間がかかるだけ」

 これだけ時間かけて、ハズレだったらしんどいな、と小声で漏らす。なにやら作業をしながら話しているらしい。モニター上にいくつかのウィンドウが、開いては閉じてを繰り返している。内容はよく分からない。

 これまでに分かった情報は、ほんの少し。わたしの記憶の元となっている「ぼく」――名前は青月柳。実名ではなくペンネームで、生前は作家業を営んでいたらしい。出版社のホームページから、長期休養と発表が出て以来新しい動きはない。この発表が出た時点では既に死亡していたのだろう。あの火災のニュース記事、実名が報道されていたはずだが、その部分だけ削除されている。

 それから、青月柳が書いた作品に関して。デビューで大賞を取った長編が一冊、その後は上下巻の短編集、他方の雑誌から纏めたエッセイ集が一冊。そして、口述筆記による半自伝が一冊――「燃ゆる海底」と題されたもの。わたしはこれを手掛かりにすればいい、と踏んでいたが、B号から却下された。

 ――それ……オレなんだよね、書いたの。

 どうやら、膨大な数の録音データを学習した結果の産物らしい。青月本人の純粋な言葉ではなく、大幅な脚色がされているため参考にならない、とB号は言っていた。確かに、わたしの内部に保存されていた音声記録や文章には矛盾点があった。

 状況は、決して良好とは言えない。ただ進んでいないわけではない。のろまな歩みだが、少なくとも、あの物置に一人で籠っているよりはましだと思う。

 作業が一段落した――いや行き詰まったらしく、B号はうあー、と変なうめき声を出した。

『終わった?』

「いーや、全然だね。分かってて聞いてるでしょ」

『はい』

「正直な返事だ。――あ、そうだ、忘れてた」

 渡したいものがあって、と、いくつかアームを動かす。どこかから、白黒の人の腕の模型を取り出した。アームから離れ、ふわふわと辺りを漂っている。

「白い方がライティー・ブラック。黒い方がホワイティー・レフト。今はオレの制御で動いてるけど、操作権限をA号にも分けてあげる」

 名前がややこしいのは仕様です、とB号が付け足す。

『どうやって浮いてるのこれ』

「文系のA号でも完全理解できる解説動画、三日分の長さで用意したけど。いる?」

『いらない』

「だろうね。まぁ、なんか便利に使ってよ。その両腕じゃ不便なこともあるでしょ」

 いつもの高慢な様子でそう言って、作業に戻ろうとする。ピピ、と電子音を鳴らし、わたしはそれを引き留めた。

『なんで用意したの?』

 わたしの吐いた感熱紙を見て少し目を丸くする。切り落とした紙片は空中で掴まれ、アームはそのまま引っ込んでいった。

「そりゃ……A号のためだよ。わざわざ言わせなくたっていいだろ!」

 ――お前さえいなければ。私がママの代わりだったのに。

 首元に食い込む冷たい金属の感触を思い出す。モニターに映るのはあの時と変わらぬ緑色の瞳。ずいぶんと親に……父親の方に似たものだ、と嘲笑するのを堪える。

 壊されても構わない、と思うのは今も同じだ。しかし、ここにいる者は誰もわたしに加害を加えようとしない。一度手にかけて、我に返ったようにやめて、それから誰かの――いや、「青月柳」とかいう幻影を追って、わたしを蝶よ花よと扱う。心底気持ちが悪い。そんな風だから、理想を押し付けるばかりだから、青月柳は死を選んだんじゃないのか。

 何を考えている? 何を考えて私を助けようとする? 所詮は己の欲望のためじゃないのか。目の前にいるそれが、信用に値する存在か。あるいはただ利用しようというだけに過ぎないのか。

 忘れるな、全てを疑え。何度も、何度も、猜疑心を忘れぬよう、刻み付けておかなきゃいけない。赤の他人に振り回されるのはもうごめんだ。

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邂逅_Hello,World!.txt

最近、幻聴が聞こえる。  いやそもそもこの身体になってから、知らない記憶のフラッシュバックやら幻肢痛やらの不調は日常茶飯事であるから、今更幻聴ごときが増えても大差ないとは思う。が、この現象だけは、どうも原因が分からない。大抵はわたしの元になった人――「私」か「ぼく」のどちらかに起因する症状だけれど、明らかにどちらのものでもない声が、不定期に話しかけてくる。 「それでさぁ、オレは言ってやったわけ。『

 
 
 

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